本タイトルは「命の授業“によって”潰されたキ○タマ」の意味ではなく、「命の授業“というお題を通じて考える”潰されたキンタマ問題」という意味である。端的に言うと釣りタイトルであるな。

さて「命の授業」は皆さんもご存知であろう。中学校などで豚や鶏などを飼育し、最終的にそれを屠殺して食すことを通じ、命の大切さを学ぶというものである。

ところが、この授業には批判も多かった。それと言うのも、モデルケースとなった授業では、この豚に「Pちゃん」などと名前をつけて、ペット化してしまっていたことが理由に挙げられる。

最後に食すのであれば、愛称などつけるべきではなかった。単に「あー、あの食用の豚、最近、丸々と美味しそうに育ってきたね」などと言っておくべきであった。最初から名前などつけるべきではなかった。

名前をつけるという行為は非常に危険だ。人間は名前がついているとそこに感情移入をしてしまう。例えば、人参に母親の名前をつけ、ジャガイモに父親の名前をつけて長い期間かけて栽培し、その人参とジャガイモで作ったカレーを食べられるのかということだ。「別に？フツーに食べられるけど？」とかぬかす奴は、本当はサイコパスだから気をつけろな。

ともかく、普通の人ならば、このカレーを食べるときに何らか心が痛むのを感じるだろう。言うまでもなく、人参やジャガイモは動物ですらなく、そこに人間のような命は宿っていない。だから、これは命をいただいているわけではないはずだ。しかし何か良心が咎める気がするのは何故なのだろうか。

つまり、我々にとって、その対象に感情移入できるかどうかというのは、それが生物であるか、生きているかということは関係なく、感情移入できるだけの舞台的な装置が揃っているかということが重要なのではないか。

日本では古来より人を呪うために藁人形が用いられてきたが、藁を呪いたい対象だと思いこみ、その藁人形の心臓部分に釘を打ち付けることで呪いが完成するという考え方である。豚という家畜に名前をつけペットだと思い込み、それを屠殺し、食するのはこの呪いの完成と同じプロセスを経ている。

話をわかりやすくするために、この逆の例を出そう。

私が20年ぐらいに見た、女子高生二人がM男をいじめ抜くというBDSM(嗜虐的性向)をテーマとしたアダルトビデオの話である。「M男君、可愛いね。そんなに可愛いとお姉さんたち、いじめちゃうんだから♪」ぐらいのテイストの軽い内容かと思って怪しげな古本屋から1万円で購入し、家に帰ってワクワクしながら見たのだが、期待していたような内容ではなく、M男君は黒のラバースーツに身を包み、それを女子高生が二人掛かりで殴る蹴るする内容であった。

女子高生達の暴力は次第にエスカレートしていき、途中でその女子高生の片方がM男君のキ○タマを思いっきり蹴り上げ、M男が失神して倒れた。それを見たもう一人の女子高生がケラケラと笑っていた。次にシーンが切り替わって、そのラバースーツから男が出てきたときには、最初の男とは全く違う顔であった。たぶん、最初の男はマジでキ○タマが潰れて病院送りになったのではないかと思う。どう見てもこれ市販したら駄目なビデオである。(いや、市販はもとからされてないのかも知れないが)

まあ、それはそれとして、その全身ラバースーツのM男君が女子高生二人に殴る蹴るされているときに、不思議と私のなかに「M男君が可哀想だ」という感情が一切起きなかったのを鮮明に覚えている。全身ラバースーツなのでM男君が人間に見えないのだ。見た目だけで言うと、漆黒の、気持ち悪い動きをする巨大ミミズみたいな生物のようでもある。それが殴る蹴るされていたところで、(中身が人間だということは頭のなかではわかってはいるのに)何も感じなかった。M男君のキ○タマが潰れようとも「君なぁ、そんなところに入って漆黒の巨大ミミズみたくなるから悪いんやで？」ぐらいに思ってしまう自分がいた。これにはとても驚いた。自分は、感情が麻痺してしまったのであろうか？

否。思うに、人間が他人を思いやるためにはいくつか前提となる条件がある。その条件さえ満たせば、たとえ対象が豚であろうと藁人形であろうと人参・ジャガイモであろうとそれを人間と同じように扱えるし、逆にその条件を満たさなければ、対象が人間であっても、我々はそれを人間だとして扱うことが出来ず、人はどこまでも残忍になれるのではないかと、潰れたキ○タマのことを思い浮かべながらそんなことを思うのであった。